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§877 大ネプチューン (1939-2000)

... 関連の預言詩8

§877 大ネプチューン(1939-2000: II-78
II-78 (§877):
海の奥処(おくが)の大ネプチューン、
それはガリアの血を混淆した赤味黄肌の人々のもの。
この後発者の故に、島々は血を流すほど櫂を漕ぐだろう:
それは上手に隠されなかった機密よりも英国を害するだろう。

The great Neptune (1939-2000): II-78.
The great Neptune of the depth of the sea,
Of the Punic people and mixed with Gallic blood,
The Islands shall row in sweating blood, because of the tardy:
It shall do more harm to him than the occult improperly concealed.

(Le grand Neptune du profond de la mer,
De gent Punique & sang Gauloys meslé,
Les Isles à sang, pour le tardif ramer:
Plus luy nuira que l’occult mal celé.)

これはイオネスクが見事に示した (Ionescu, 1976, p.632-633; Takemoto, 1991, p.76-77) ように、米国中心に開発していた核技術情報がイギリス人脈を通してソ連のスパイに盗まれた第二次大戦終了直後の時期に、「大ネプチューン、即ちアメリカ合衆国」が「島国国家イギリス」に代って世界覇権を握ることになる、という預言詩である。§861, X-100詩で予言された大英帝国の300年以上にわたる世界覇権が、遂に1939年当りで終るのだが、それに代る新たな覇権国「大ネプチューン」の登場を本詩は詠う。

海の奥処(おくが)の大ネプチューン」:「ネプチューン Neptune」の語は『預言集』に都合6回登場し、1回はイギリス (I-77, §464)、1回は惑星の海王星 (IV-33,§613)、そして残り4回はアメリカ合衆国を指し、このうち3回が「大ネプチュ-ン le grand Neptune (the great Neptune)」と称されている。これは圧倒的な海軍力を有つ米国の記号である。「海の奥処(おくが)の」とは、ヨーロッパ大陸から見た「大西洋の彼方の」という意味だろう。

赤味黄肌の人々」:古フランス語 Punique (Punic) の意味は、「オレンジ色、即ち赤色と接する黄色 Orangé, c’est à sçavoir jaune, tirant sur le rouge (orange, namely yellow, bordering on red)(Huguet) であるから、明らかに、いわゆるアメリカ原住民を指している。従って、イオネスクがそこに「黒人」をも含めるのは正しくない。黒人についてはノストラダムスは何も触れていないのである。

ガリアの血」:「ラテン・ケルト族起源の人々」(Ionescu, id., p.632)、要するにヨーロパからの移民。

この後発者」「島々」:この大文字附きの「島々 les Isles, the Islands」は「ブリテン島 les Isles Briranniques, the Britannic Islands」であり、従って「連合王国」「大英帝国」という単体の国である。それゆえに、それは4行目で、luy (him)という単数の人称代名詞で承けている。又は、I-77 (§464)で英国が米国にも共通するNeptune という特定名称で呼ばれていることから、luy Neptuneという男性名詞を念頭に置いたものとも言えるだろう。そして、「後発者」とは「イギリスの後を襲って強大な海洋国家に成長したアメリカ」である (Ionescu, id.)。但し、イオネスクは、ramer (to row) というフランス語不定詞を「後発者」と統語させているが、それは文法的に認められない解釈である。フランス語文法を忠実に守るならば、それは、Les Isles à sang ramer (The Islands shall row in sweating blood) 島々は血を流すほど櫂を漕ぐだろうというつながりを構成するだろう。この表現は、英国は、もはやどんなに頑張っても、巨大新ネプチューンを眼前にしては、往時の大海洋国家の面目を保ちえない、という現実を表している。

上手に隠されなかった機密」:これは、イギリスの面目を削ぐような、イギリス関連の「核機密情報のソ連圏への漏洩」であるから、いわゆる「クラウス・フックス事件」のことである。ドイツ生まれの理論物理学者クラウス・フックス (Klaus Fuchs [1911-1988]) は、ナチスから逃れてイギリスに亡命し、その市民権を得て、同じく亡命ドイツ人の同学の先輩パイアールス教授のもとで、英国の核物理学研究の中で有為の人材として功績をあげ、米英共同の原爆開発計画たるマンハッタンプロジェクトに英国派遣学者の一人として参加しながら、実はソ連のスパイとして、極秘の核関連情報を連絡員に渡していた。それが発覚したのは、ソ連がすでに最初の核実験を実現した同じ年の1949年で、彼は裁判で禁錮14年を受刑し、出所後は東ドイツで暮らした。この事件は、英国市民が同盟国アメリカを裏切ったものとして、英国の大なる恥辱であることに変わりはないのだが、しかしそれよりも更に大きな英国への打撃が、主として米国によって先導された「脱植民地の世界的気運」であって、為に、大英帝国は植民地喪失のレールを只々驀進するしか無くなったのである。

「それは上手に隠されなかった機密よりも英国を害するだろう」:「トルーマンの時代に、アメリカの批判を受けて、大英帝国はその諸植民地を手放さざるを得なくなったのである。『大英帝国は、労働党政権 (1945-1951) の下で、イギリスの植民主義帝国主義に関するアメリカの批判を抑える目的で、一連の政策を採った。英政府は1947年にはインドに、そして1948年にはビルマに独立を承認した。マレーシア国家を英連邦の枠内で独立政府を持つ一単位として構成すべく所要の手続きが取られた。又、イギリス軍は1946年にはインドネシア、シリア及びレバノンから撤退した。』(Encycl. Brit. vol.23, p.804D)(Ionescu, id., p.631)

ところで、イオネスクは、4行目を「アメリカがイギリスから世界覇権を奪ったことで、イギリスが弱体化し、為にアメリカの同盟国としてのイギリスの力が失われて、それが対ソ連への対峙上、アメリカにとり, 核機密漏洩以上に大きな損失である」という趣旨で理解しているが (Ionescu, id., p.632-634)、これは自己矛盾を含む成り立ちえない解釈である。何故なら、彼が対共産圏への一種の体質的恐れから空しくも求めているのは、米英が同じく並び立つ超大国として、相敵対する超大国ソ連に立ち向かうこと、であるとしても、現実には、凋落したイギリスに代わってアメリカが西側の抜きん出た超々大国として登場し、NATO等を身辺に置きつつ、ソ連と引けを取ることなく対決した、ということであって、むしろ、嘗てのイギリスの超大国振りと、新たな米国の超大国振りとでは、後者のほうが遥かにスケールが大きい、と見得るのである以上、イオネスクの解釈は、フランス語文法の考察において若干弱点を持つ彼自身の政治思想的杞憂から生じた単なるPARALOGISM(虚偽推理)に過ぎない。
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